FF6から三闘神の一人の女神のお話です。
複数誘惑で同士討ちの微グロです。
設定とか忘れすぎて適当なんであしからず。
私を守りなさいとか死ぬまで~っていう台詞があるのがエロい。
小説も少しづつ書いていきたいと思います。
この荒廃し滅び行く大地に悠然と立ちすさむ、その名も瓦礫の塔。帝国を裏切りガストラ皇帝を謀殺した、にっくきケフカが作り上げた悪趣味過ぎてへどが出るほどの醜悪な建造物だ。
俺達はかつて揺ぎない盛栄を築いた帝国の精鋭部隊だった。地が裂け雷鳴が轟き幾重にも津波が押し寄せる。崩壊後の世界はまるで酷い有様だった。緑は枯れ生き物は生命力を失い次々と死に絶えていく。
この世界で信じられるものは何もなかった。あるのはこの絶望に乗じて人をだまそうとする輩ばかりである。略奪強盗強姦、何でもありで世紀末では信じられるのは自分の力だけで全てだった。
――ケフカ討つべし。
散り散りなった俺達をまとめる一つの真理はこれだけだ。
あるものは家族を失い住む場所も財産も何もかも失っていた。かくいう俺も、将来に結婚を誓いあった女と離れ離れになっていた。どこかであいつはきっと生きている――。そう思わなければやりきれなかった。
「ヒューイ。行こうぜ」
物思いに沈んでいると、仲間も一人が俺の名を呼んだ。どうやらこの塔に侵入する経路が確保されたらしい。
「OKギル。ああ、今行く」
塔の内部はケフカの配下の魔物達でごったがえしている。ケフカか討つためにはどうしても避けては通れない。
俺達は全部で二十人の大所帯だ。かつての帝国のメンバーだけでなく、何かを失った者達も数人混ざっていた。
やり場のない怒り。それをぶつける場所はこの瓦礫だらけの塔しかなかった。
塔の中は屈強な魔物達でひしめきあっていた。俺は得意の両手ナイフで無感情に肉を切り裂いていた。何も手心を加える必要はない。求めるのはケフカの首一つだけだったから。帝国の中では大して地位のない魔導師であったケフカが、どうしてこの世界の神になり得ることがあろうか。勘違いも甚だしいことこの上ない。
俺は仲間達と共に、道なき道をまっすぐに突き進んだ。敵の苛烈さしだいに勢力を増していった。研ぎすまれされた牙が爪が、脆弱な人間の身を無残に切り裂いていく。仲間の屍が一人また一人と増えていく。自分の命を守るので手一杯だった。一瞬でも気を抜けば、邪悪な魔の凶器に身を八つ裂きにされてしまうに違いなかった。
手痛い犠牲を伴いながらも、俺達は塔の中枢へと接近していた。
もう少し。
はやる気持ちを抑えながらも、俺は生臭い地面を蹴り上げた。仲間の数は既に十人をきっていた。名誉の戦死、俺達は最後の一人になってもそれに報いなければならなかった。
「おっ。ここは……」
魔獣達の咆哮が一時止む。少し余裕のある広がった空間だった。まるで何か博物館や美術館で、一番価値のある物を鎮座させているような落ち着いた静寂感さえ感じる。
「ようこそいらっしゃいました。私は三闘神が一人――女神でございます」
広間に女の声が響きわたる。声のした方、中央に視線を送る。そこには一人の女が、しおらしげにして優艶な笑みをたたえながらただずんていた。まるでビーナスのような優雅な体つきで、どう考えてもこの場には不釣合いであった。
ほとんど裸で露出度は限りなく高い。水色の透けた布地が、申し訳程度に乳房や腎部の大事な部分を隠している。いや隠すというよりそれは強調だった。むっちりとした肉の重みと艶かしさを、無理やり際立たせるかのようにぐるりと布地が絡み付いている。それは乳房と尻肉に淫らに食い込み、雄の本能を煽るための淫靡な装飾でしかなかった。顔つきも柔和で美しかった。慈愛の深い包容力のある口元が常に笑っている。眼差しは吸い込まれそうなほど優しくて、それでいて妙に蠱惑を感じるほど艶やかで――。
「うっ……」
俺は突然のこの女の登場に息をのんだ。どうやら周りの仲間も同様らしい。ほぼ半裸の女がこんな場所にこうして存在しているのはおかしすぎる。
「ふふ。聞こえませんでしたか? 偉大なるケフカ様のために祈りましょう? あなた達もそれが目的なのでしょう?」
その声で俺ははっと我にかえった。そうだった。俺達はケフカを倒すためにこの塔にやってきたんだ。危うく女体の魅惑に目的を忘れそうになっていた。
危なかった。何が女神か。いくら女であっても、結局は悪しきケフカに魂を売った魔の眷属に違いないのだ。
「みんなっ。さっさとやっちまおうぜ! 俺達の目的はケフカの首ただ一つ! こんな女にかまってられないんだ!」
「お、おう……」
どこか不安げな様子の仲間の声が聞こえた。
「そうだぜヒューイ。俺達は……こんなところで。何もかも奪われたんだ。女でも容赦なんかしない。みんな、行くぞ!」
ギルが皆を鼓舞するように言う。
そう、俺達はこんな女なんかに惑わされたりはしない。皆がそれぞれずっしりと背中に重い悲しみを背負っている。ケフカを倒すまでそれから開放される術はない。
「悪く思うな」
ぐるりと回りを取り囲む。これで終わりのはずだった。帝国の精鋭達が裸の女を一人を包囲している。当たり前のように一瞬で終わるはずだった。
「あら……。祈るためではないのでしたか? ふふ、愚かな。いいでしょう。この女神の力をあなた方に見せてあげましょう……」
「ほざくな!」
女の細腕がゆらりと動く。その手前で俺は即座にナイフで切りかかっていた。
しかし、落雷。どんという轟音が地面に刺さる。
「くっ」
危なかった。俺はすんでのところで身を翻して、女の魔法攻撃を回避していた。
「せっかちですね。もっと楽しみましょう……ね? ほぅら……」
再び女の手が踊るように揺らめく。直後に室内ではありえない現象、大粒の雨がしとしとと降ってきた。しかもこれは肌が焼け付くように溶けている。つまりは酸性だ。
「くそっ。舐めやがって……」
どうやら一筋縄ではいかないらしい。いや、俺は負けない。この世界に平和を取り戻すために、絶対に勝たなければならない。そして必ずあいつに会うんだ。
俺は悪い視界の中、地を蹴り女へと突進していた。
数分たったが、状況は芳しくなかった。常に肉体を削る酸性の雨と突然落ちてくる稲光のせいで、女に接近するのは容易いことではなかった。しかしそれでもおかしすぎた。こっちは十人もいるのだから、一人ぐらい女へダメージを与えてもいいはずなのに、今まで一度もそんなことは許されなかった。
「くっ、くそっ。何でこんな女一人なんかに……」
横でギルがうめいていた。どうやらギルも同じような感情を抱いているらしい。
何かがおかしかった。相手は女。だが手加減などするつもりはなかった。こんな恐ろしい魔法を使うのは、ただの魔物であるに違いなかったから。
「うう……」
黙っていればこの酸性の雨でじわじわ体力を削られていく。このままじっとしていれば死が待っているだけである。
俺は意を決して刃を女に向けようとした。が、その時――。
……さい。
……りなさい。
……を守りなさい。
何だ? 耳に不思議な声がどこからか届いてくる。あの女の声だ。優しくて、どこか妖しくてねっとりと耳に粘りついてくる。しかもそれはしだいに脳内を反響するかのように大きさを増していく。女のとても柔らかそうな唇を思いだしていた。耳にちゅるりと吸い付かれて赤い舌でねぶられる妄想に包まれる。
――守りなさい。
――私を守りなさい。
――私を守りなさい私を守りなさい私を守りなさい……。
「くっ」
俺は反射的に耳をふさいでいた。が、それは意味がなかった。鼓膜ではなくどうやら頭の中に直接囁きかけられているようだ。唇をぎりっと噛み太ももをどんと叩いた。そうするとあの女の奇妙な囁きは遠のいた。
「何だったんだ今のは。みんな大丈夫か?」
周囲に声をかける。だが返事をする者はいなかった。誰しもが皆、口を半開きにして目をうつろにしながら呆然と立ち尽くしていた。あの女の誘う声に酔わされてしまったのだろうか。
ギルも口をぱくぱくさせながら陶酔しているようだった。俺はつかつかと歩み寄り、ギルの鳩尾めがけて一発拳を繰り出した。
「うぐおぇっ……」
腹を抱えて倒れこむギル。
「お、おいヒューイ……」
「あの女は俺がやる」
「ああすまんな……」
俺はナイフをぐっと握りしめる。いつの間にか雨は止んでいた。余裕なのだろうか。こんな俺達なら軽くいなせてしまうと。その考えを根底から踏みにじってやりたかった。
「ふふ……。私の愛……お気に召しませんでしたか?」
「何を言っている。死ね!」
跳躍して飛び上がる。狙いは女の頚動脈だけ。一瞬で間を詰めそして一閃――。
がちゃりと金属音。刃がこすれる音。
「な……」
俺は自分の目が信じられなかった。刃は女に全く届いていなかった。そしてなぜか自分の攻撃を防いだのが、他ならぬ今まで目的を共にしていた仲間だった。
「何をしているお前!」
「う……あ……」
大柄の男だった。女の前でその身を盾にするようにして剣を構えていた。
「守らなきゃ俺……女神様を……だから……」
ぶつぶつと口ごもっていた。その後ろで女がゆっくりと近づく。男のいかつい顎に指を這わせてそっと囁く。
「ありがとうお兄さん……ちゅ♪」
「あっ、ああ……」
女は次の瞬間、男の頬に接吻をしていた。そして背中にぐにゃりと自慢の乳房を押し付ける。薄い布がずれて媚肉が妖しく淫らに揺れ蠢く。
「くそっ」
俺は一旦退いた。一体何がどうなっているのか。
「うふふ。このお兄さんの心はもういただいたわ。私の『愛の宣告』に聞き惚れてしまいましたもの……。さっ……そちらのみなさんも、もっと私の声を聞けば気持ちよくなれますよ……。ん~~っちゅっ♪」
女が他の仲間に投げキッスを飛ばす。男達はその色香にも翻弄されて動揺していた。どこかしこから女神様女神様という声が漏れる。
「一体俺の仲間に何をした? 早くみんなを元に……」
「何も力で押すばかりが戦ではありませんよ……」
そう言って女は腰をくねらせて妖艶に笑った。白くて零れ落ちそうな胸元がぎゅっとはじける。女性特数の湾曲的なラインが、視神経を魅了して脳髄を煩悩に染めようとしてくる。
「ほら……見なさい」
女が口をぽっかりと半開きにしていた。れろれろと舌がいやらしく蠢く。つややかな白い歯がのぞく。赤い粘膜の美しさに魅入られて見つめてしまう。かろうじて目をそらしても、汗で濡れた魅惑の谷間で視界を陵辱しようとしてくる。
「くっ、くる……な」
俺は間一髪のところでこの魅了を耐えた。股間に熱い血液が走りどくどくと心臓の鼓動が早くなる。
「あら……おしい。ふふっ」
「はぁ……はぁ……」
後ろに下がって体勢を立て直す。崩壊後にまともに女を抱いたことはなかった。それゆえに、この肉の誘惑はあまりにも強烈だった。
「ギ、ギル。お前は大丈夫か?」
後ずさりし、ギルに声をかける。さっき殴っただけあって正気らしい。
「あ、ああなんとか」
やる気なく消沈したギルの声。
「ふふ。あなた方二人を残して……みなさん私の僕になってしまいましたね……」
女の周りに、かつて仲間だった男達が寄り集まっていた。熱に浮かされたように魔性の女を取り囲んでいる。
「さぁあなた達。もっといいことしてあげますね……ふふ♪」
「はい……女神様……」
「女神様女神様……」
「女神様すばらしい……」
呆けた声で男達が女を崇拝している。女はそれを聞いて嬉しそうに胸と尻を揺らした。男はそれに反応して欲情のおたけびをあげる。崇拝してさらに欲情してまた崇拝した。連鎖的に危険な倒錯に導かれて支配が強まっていく。
妖しく踊る女の細長い指が、つんと男達の怒張しきった股間を押した。流し目を送りながらくりくりと力を加えて、先端に官能の疼きを注入する。男達は同時に言霊を耳にふっと吹き込まれた。一人一人耳を甘い舌で犯されながらねっとりと愛撫を受けた。
――死ぬまで味方を殴りなさい。
――ふふ。味方ってのは裏切り者のあいつらよ。
――ほら。わかるでしょう?
――行きなさい。ご褒美は永遠の快楽よ……。
「あああ……」
男達は歓喜の涙を流した。しかし誰も達するものはいなかった。女神の誘惑は強力に男達の心を束縛していた。狂おしいほどの強烈な魅了に心を溶かされていた。
――これが『ゆうわく』よ。
――『愛の宣告』とあわせたら効果は二倍以上。
――死ぬまでこの操りの糸は消えないのよ。
――嬉しいでしょう? ねぇ? 女神様に操られて。
――ふふ。愚かに醜く罵り争いあうがいいわ。私にたてついた……罰♪
――ほら行きなさい。ほら! ほら! 早く!
「めっ、女神様ぁ。今すぐこいつらをめったうちに……」
「女神様のため……女神様のため……」
「うふふ……」
女の忠実な僕となった男達が、色を失って襲い掛かってきた。しかし彼らは仲間のはずだった人間である。あの耳にぺたりとはりつく甘い声に、弄ばれて狂わされて正気を失ってしまったのだ。
「くそっ!」
俺はなんとか距離をとろうとして後ろへと飛んだ。すっかりあてがはずれてしまった。かつて帝国の精鋭だったものが、女の魔性に軽々しく心を奪われていた。このままでは血肉を削りあう無意味な同士討ちが展開されるだけである。何としてもそれだけは防がなければならない。
女ははるか後方にいて、余裕の表情で笑っているだけだった。そのお高くまとった面をぐちゃぐちゃにしてやりたかった。
「ひっ、ひええ! 何でこいつら急に……。ひっ!」
ギルが一人逃げ遅れていた。もはや暴徒と化した集団が、無防備なギルめがけて凶刃を振り下ろそうとしていた。
「女神様にたてつく奴は死ね!」
「そうだ……そうだ……」
「やっ、やめろぉ! 俺達は仲間だったじゃないか。それなのに……」
陰惨な刃物がギルの体に集中砲火する。ぎりぎりのところで身をかわすが致命傷を受けるのも時間の問題だった。ギルの嘆きの叫びは虚空に消えた。助けようにもどうにもならなかった。仲間だった奴らを傷つけることなんてできない。諸悪の根源はあの女だったが、直接攻撃する手段がなければどうしようもない。女の忠実なナイトとなった男達が喜んでその身を盾にするだろう。
「ギル! 避けろ!」
「うわぁ!」
遅かった。回避しそこなって、足がもつれてべたりと地面に倒れこむ。脛の辺りをざっくりと切り裂かれていた。どくどくと赤い血の色がズボンに滲む。
「う、うう……。痛てぇ、いてぇよぉ……。なんでこんな……」
泣き喚くギル。しかしそこにも容赦ない制裁が加えられようとしていた。
「裏切り者は……抹殺」
「あ、はぁ……。やりました女神様」
「ひっ、ひぃ、ひぃいぃ」
そんな騒然とした状況に、女はしずしずとした態度でギルに歩み寄った。
「ふふ……。もういいでしょう。この坊やはまだ……更正の余地がありますからね」
「あっ、ああ……」
女のしなやかな手が、ギルの顔に優しく降りかかろうとしていた。それをぼうっとした顔で見つめるギル。
「だまされるなギル! そいつは女の皮をかぶった化け物だ! 逃げろ!」
俺は力の限りの声で喉を振り絞った。
「裏切り者の言うことは聞く必要はありません。さ……私の手にキスをしなさい。そして女神様と言うのです。それで坊やは救われますよ? さぁ……」
「あ、はい……はぁ……」
ギルに俺の声は届かなかった。そして女の白い手に何度もキスをまぶしていく。
「女神様女神様女神様……」
うっとりとした表情でギルは忠誠を誓っていた。
「うふふ……」
下僕を増やした女は妖艶に笑っている。指を舐めさせながら、毛づくろいするようにして頭を優しく撫でる。
深まる倒錯の狂気。周りの男達も女にひれ伏しあがめ、足元にうずくまりながら涙さえ流すものもいた。
「女神様……素晴らしい……」
「女神様もっと……」
「ああ……あああ……」
俺は一人だけ蚊帳の外だった。ぽつねんとしてこの滑稽な痴戯を呆然と眺めることしかできなかった。
「ちょっと疲れちゃった……。椅子が欲しいな……私」
「わ、私が椅子に」
「いや俺だ」
「俺が」
「ふふっ。喧嘩は駄目よ」
やがて、一人の男が女の肉感的な股に顔をうずめていた。むちっという音が聞こえそうなほど、肉づきのいい太腿を締め上げている。
「む……むむ」
「つぶれちゃ駄目よ。椅子なんだから」
くぐもる声。必死で椅子になろうとして態勢を保とうとするが、男は耐え切れずに腰を折って崩れ落ちた。
「あら使えない椅子ね。次は誰かしら?」
女がまた男達に問いかけをした。目が糸のように細くなり口角が上がる。官能の流し目の直射を受けた男の中には、射精まで到達してしまった者もいた。
肢体のいやらしさを強調するように指が這い回る。膝の上からつーっと滑らかな肌をすべり、むっちりと大きめの腰を抜けくびれをカーブし、どんと重く垂れ下がる淫らな果実でその終点を迎えた。
「はぁ……ぁん♪ 椅子ぅ……次はだぁれ?」
「はい……私が椅子に……」
「私が私が……」
もはや一人だけではなかった。男達がこぞって先を競いあい、魔性の女の椅子に自ら堕ちたがっていた。その中には足を切られて地べたを這っているギルの姿もあった。すっかり女に心酔し、顔の筋肉全てを弛緩させて一心不乱に女の尻の下になろうとしていた。
「みんな正気にもどれっ! くそっ! 何だってそんな女の……」
俺は声を張り上げた。この屈折した事態に頭が追いついていかない。本当は恐ろしかった。女の手練手管か悪魔的な魔術の力か。どちらにしろ、いとも簡単に屈強な男達が一人の女の虜と成り果てていたのだから。
「あらまだいたのね。あんな小物はさっさと殺してやりましょう……ねぇみんな?」
女が目配せすると、殺意の集中が俺に一斉に襲い掛かった。どこにも逃げ場はなかった。俺は、どこにも――。
目を血走らせて暗黒の狂気に染まった男達。その面差しにはかつての意思の欠片は見当たらない。愛欲にその身を支配された、魔獣達の舌なめずりが聞こえてくるばかりだった。
「うわあああっ!」
俺は突発的にナイフを投げた。それは女の美しく精巧な顔面へと向かっていた。
「はぁ……はぁ……」
次の瞬間、眼前に起こった現実を理解できなかった。なぜなら俺が投げたナイフは、ギルの喉元へとずっくと刺さっていたからだ。しかしギルの表情はなぜか感極まって幸せそうだった。そのまま女に抱えられてぐっと頭を垂れる。
「まぁ……私のために身を犠牲にして……」
「はい……俺は女神様の役にたてて幸せ……で……す」
そのままギルはこと切れたように目をつぶった。
女がにこやかな笑顔で、悄然としている俺の方を向く。
「うふふ。まぁなんていやらしい。仲間をナイフで殺めてしまうなんて……。ああ恐ろしい」
「ちっ、違う。俺はただ……」
俺は酷く混乱していた。ギルを殺してしまったことによる罪悪感。いやそれより今喉に突きつけられた凶器に恐れおののいていた。確実に来るであろう死という絶望の運命。目的を果たさずに死んでいくだけのむなしい結末。
「言いわけはあとで聞きますね……。さぁみなさんやっておしまいなさい。おほほほほ……」
女が高笑いが俺の最後の記憶だった。理不尽な刃物が全身を痛みで塗りつぶしていく。俺の意識はそこでぷっつりと途切れてしまった。
「ん……」
俺はむくりと起き上がった。生きている――。いや、俺は確か妙な女の手にかかって死んだはずだった。だとしたらここは一体どこなのだろう。
「お目覚めですか?」
優しい音色が頭上から落ちる。女が、いや女神が俺に優しく微笑みかけながら見下ろしていた。
「俺は……一体?」
「ふふ。もうわかっているのでしょう? あなたがいて、そして私がいる。永遠の生命……。それが真実です」
「ああ……」
女神の声を聞くと安らぐ。周囲には仲間達も女神の機嫌をとりながらはべっていた。哀れな人間の椅子に腰をかけて、足を組み替えながらその美しすぎる太腿を見せびらかしている。
「『クラウディヘブン』。死んでも私の愛は消えませんわ。おほほ。これからも私に絶大なる忠誠と愛情を注いでくれますね? 例え、その身が朽ち果てようとも――何度でも何度でも……」
全ての意味を理解することはできなかった。ただ体が自分のものではなく、どこかうわついていてふらふらと風船のように漂っていても、甘美なる幸せの揺り籠の中にいつも安らかに座っている。そんな理想じみた甘い享楽と愉悦に染まりきった境地に堕ちていた。
「女神様女神様……」
「女神様……」
人間達が何人も女神のおみ足にすがりついていた。自分もそこに混ざろうと思った。母親の乳房にすがろうとする赤ん坊のように、それはごく当然のこととして行動した。
「女神……様……」
俺はつるりとした指先にキスを繰り返した。もうこの世のことなどはどうでもいい。この美神の前にひざまづき、魅惑の糸でがんじがらめにされて永遠の時を受け入れることこそが幸せだと悟ったから。
「もっとお舐め。可愛い坊や」
女神の親指が口にねじ込まれる。俺はその白い指を愛おしくくわえ込んだ。
「はぁ、はむ……んむ……」
「うふふ……♪」
艶然として緩い視線を送ってくる。頭の中が女神でいっぱいになった。賛美歌ともいえる福音の鐘がらんらんと鳴っていた。
「あ、あ、ああ……」
俺は指を口に含んでいるだけで射精していた。それはおさまることなく快感が延々と続いていく。
――女神様のため……女神様のため。
――うふふ、気持ちいいでしょう?
――これが天上の極楽ですよ。
――そして永久に私の眷属となり仕えるのです……。
またあの声が聞こえていた。どこか懐かしくて、憧憬を感じさせる優しい声だった。
「め……がみ……さま」
俺は再び射精していた。脳内を白く染め上げる快楽の坩堝の渦。終わることのない悦楽の鼓動。
肉体も精神も魂も捧げる幸せ。
――もっと私の名を呼びなさい。
「はい……」
主の命に喜んで従う。俺は脳さえも蕩けそうになった。
女神様女神様女神様女神様女神様女神様…………。
ああ本当に幸せだ。からだもなんだか、女神さま、とろけて、ぐぶ、あ
- 2011/09/25(日) 17:52:45|
- SS
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