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ネイティファス
淫語ボイスドラマ製作サークル ネイティファスのブログです。

少年戦士アークの大冒険

ちょっと小ネタのSSです。
♂×♂要素があるので注意。


予定のCG集はすごい誘惑してくるけど、
いざ本番になったら完全無視で
男だけが腰を振るというニッチシチュになります。

スマホとか本を読んだり別のことを考えていたりと
何か琴線に触れたので出してみたいと思いました。
基本六枚で差分で50枚以上にはなる予定です。


音声でドキドキ色仕掛けダンジョン
ほぼ泣き声オンリーで誘惑するロリっ娘、
お金で釣るセレブクイーンと二つ書くかもしれません。

後エスパ様も三人以上の掛け合いはやったことがないので
色々やってみようかなーと思います。

では。




 少年戦士アークの大冒険


 少年戦士アークは、意気込んで眼前の敵めがけて剣技を繰り出した。
「くらえっ! ドラゴンスマッシュ――」
 が、威勢がいいのはかけ声だけだった。足さばきも筋力も伴わない彼の剣筋は、魔性の力により人を襲う邪悪へと変貌した妖精――リトルシルフにはまるでかすりもせず、ふわりと空切り物言わぬ地面へと剣先を深々と突き刺す結果となった。
「うふっ♪ はずれだよお兄ちゃん♪」
 からかうようにシルフは笑った。ほっそりとした肢体に透けるワンピースから伸びる太ももや二の腕まぶしい。極めて低位の魔物だが、いたずら好きで人間を惑わせて虜にしてしまうのが趣味である。
「くっ。僕の必殺技をかわすなんて……。だがまだ!」
 年若い戦士はこれぐらいでへこたれるわけはない。すぐさま体勢を立て直し、くすくすとこちらをあざ笑うシルフへと突撃を開始した。
 胸の前でぐっと剣を両手で固定し、直進的な動きでわき目も振らずに邁進する。
 読みやすく猪突猛進。いくら下位の魔物といえど、素早さだけは高いシルフには当たる理由は皆無だった。
「うわっ。ま、またはずれた……。でも僕は何度でも……んっ?」
「お兄ちゃん……ほら『ゆうわく』♪ ねっ……ちゅっ♪ 私といいことしよぉ……♪ ねぇねぇ……」
 不意をつかれ背後から腕を回される。妖精族の可愛らしい魅力をふんだんに活用した魅了技の一つ、『ゆうわく』が青年アークの脆弱な心に甘い揺らぎをもたらした。
「なっ、何やって……あぁ……」
「ほらぁ……私のために戦ってぇ……。あそこのお兄ちゃん達をやっつけてくれたらぁ……、後でとってもいいことしてあ、げ、るっ♪」
「ううっ、そ、そんなの誰がっ……ああっ……でも……うぁぁ……」
 心を奪うシルフの責めはアークのツボを的確に突いていた。妖しい色香に身を包んだ幻想の美少女が、折れそうなほどの華奢な肢体をすりつけながら耳元で甘い囁きを送り込んでくるのだ。
 まともに女性と会話したことのないアークにとっては、この精神攻撃に抵抗することはできない。一片もシルフの言葉を疑うことなく聞き入れ、情熱的な瞳を見続けて魅了され、さらなる深みへとずぶずぶ引きずりこまれていくのである。
「あはっ♪ ほらほらぁ♪ もうお兄ちゃんは私の虜でしょ? ねぇ言ってぇ……シルフ様大好きってぇ……。一生の忠誠を誓ってぇ……。ほらほら……」
「ああっ……。は、はい……僕はシルフ様の――」
 膝をつき目をうつろにさせる若き戦士。邪悪な妖精の、傀儡人形へと堕ちてしまうのも時間の問題のはずだった。
 だが甘い幻惑空間を切り裂く闖入者が、九割精神を支配されかけたアークの危機を救った。
「ひやっ! 何これ? ナイフ……? やっ、いやぁん……」
 シルフが大げさな動作で飛びのいた。
 数メートル遠方から放たれた小型のナイフ。アークの頼りになる仲間の一人、口が悪いがナイフの腕前は抜群の盗賊ジェスがシルフめがけて攻撃を開始したのだった。
「オレのナイフからは逃げられないぜ。早くあきらめな」
 ジェスが冷たく言い放つ。
 次々と投げられるナイフは的確で、何の防御手段も持たない妖精を確実に追い詰めていった。羽を貫き太ももを傷つけワンピースの生地を無残にも切り裂いた。
 嗚咽のような泣き声が一瞬で場を染める。もはや命を奪われるのも確定事項。血が滲みボロボロになった素肌が酷く痛々しい。
 だがまだ彼女はあきらめていなかった。先ほど『ゆうわく』でほとんど篭絡したも同然の青年を利用しようと考えた。
 体に打ち込まれた無機質な金属の痛みを振り切り、必死の思いでアークへ向けて最後のお願いを試みた。
「お兄……ちゃぁ……ん……。私……を……まも…………って……」
 か細く、今にも消え入りそうな声だった。しかしそれは、意図したしないにもかかわらず、アークの純情な心を面白いほど揺さぶってしまった。
「おっ、僕の可愛いシルフを……、な、なんで……あっ。うっ、うわ……許さない……絶対に……ああっ、うぉおおお――――」
 怒りのエネルギーが頂点に達し殺意へと変貌した。『ゆうわく』の効果は奇しくも使用者の悲劇が引き金となり、絶大な効果をもたらすはずだった。そう、もたらすはずだったのが――。
「神の恩寵よ……。迷いを解き払う神聖なる力を……! キュアル!」
 しんと静謐に近い静寂の声。直後、アークの周りの地面に白の魔方陣が展開され、交錯する光片と共に闇に堕ちかけた戦士の心を浄化をしていく。
 彼の名前はアムト。神に忠誠を誓い聖なる魔法を使うことを許されたプリーストの一員だ。
 常に穏やかな笑みを口元にたたえ、冷静沈着な判断でPTを最善の状況へと導く。
「あっ……あれ? 僕?」
 アムトの使ったキュアルにより、精神の均衡を取り戻したアークが頭をかきながらつぶやいた。
「もう終わったぜ。妖精のいたずらも困ったもんだ」
 ジェスの足元。モンスターの亡骸が静かに横たわっていた。
 なぜか見つめると涙が出た。アークは感じやすかった。正気を奪われてたとはいえ、一度傾きかけた情は振りほどきがたい。
 むしろ妙な気持ちになっていた。ぽんと投げ出されたむき出しの太もも。鮮血に染まって形は醜く崩れているのに。何か訴えかけるかのように、生を失いずっと細くなった肢体に再び心を絆されようとして――。
「アーク。大丈夫ですか?」
 肩に手を置かれる。不思議と暖かみが戻ってくる。アムトがにこにこと笑うと急に現実感が急接近した。
「オレたちの最終目的は、打倒ドルマゲータ。そうだろ?」
 ジェスが言った。そうだった、とアークは思った。 
 自分には仲間がいる――。かけがえのない仲間。邪悪な誘惑になんて構っていられない。きっと魔王を倒すまで、なんびたりとも動かない頑強な心を胸に抱き続けて――。





「いや、ひどい茶番だった」
 一戦闘終えたジェスの一声はそれだった。
「まぁまぁ。私は楽しかったですよ。ジェス」
 とアムト。
「やばかった。ドキドキした。意外にもこんなにシリアスになるなんて……。やっぱり『ゆうわく』は最高だ……」
 含み笑いをアークはかみ殺した。彼は大の誘惑好きだった。魅了スキルを使う魔物が大好きだった。女の子をモンスターを見れば必ず色仕掛けを仕掛けてくることをいつも望んでいた。
 ただし戦闘の安全も常に望んでいた。誘惑攻撃による高揚感と、PTの維持が同居する方法も常時考えていた。
 そのジレンマは前の戦闘で大体消化されていた。
 答えは確実に安全な状況で敵に誘惑をかけてもらうこと。敵も一体だけで弱いが『ゆうわく』だけはきっちり使ってくる。そして魅了されたとしても即座に敵を倒してくれる仲間、あっち側へと振りきれた感情を正常に戻す治癒魔法の使い手。
 テクニカルな盗賊ジェスと、僧侶魔法に卓越したアムトがサポートしてくれたおかげで、アークのやんごとならぬ願望は達成されたのである。
 敵の仕掛けてくる誘惑攻撃。心を魅了されるまでの過程。その天国までの階段一歩一歩がアークの求めるところだった。
 彼が冒険者として仲間を集めるべく、ダルイールの酒場をぶらりと訪れたのもこんな邪な理由からである。
 自分の卑小な満たすためだけのPT。まず集まるはずはないと思ったが、心優しき友は偶然にも現れたのだった。
 初めに仲間になったのはジェス。
 銀髪でエルフ、耳が鋭くとがり、首には赤いマフラーをくるんでいる。ナイフの達人でどんな獲物も素早い連続攻撃でしとめてしまう。盗賊稼業にも精通していて盗みや鍵開けにも非常に明るい。
 続いてアムト。
 先祖代々からの聖職者の血を引いており、治癒魔法にかけては非常に明るい。清潔感のある好青年で、すらりと体にフィットするローブを纏いながら、常に口元には涼しげな笑みが浮かんでいる。
「ていうーかさ。風俗いこうぜ風俗。なっアーク。さっさと童貞捨てちまえよ。なんなら俺がいい娘紹介してやるからさ。そしたらあんな誘惑攻撃なんか……」
 ジェスが茶化しながらニヤニヤ言った。
「ちっ、違う! ジェスは全然わかってない。僕は『ゆうわく』されるのが好きなんだ……。決してただやりたいわけじゃない……」
「そんなこと言ってるから、いつまでもお前はボーヤなんだよ。いいから一回はめてみろって。世界が変わるから」
「嫌だー。僕はそんなことはしたくないんだー! 第一女の子って怖いじゃないかー! うわー! うわぁー!」
「男のくせにヒステリーか? ほらどうどう」
「まぁまぁ二人とも落ち着いてください。私はアークのいう事もとてもよくわかります。私も一生童貞であることを強制された身……。穢れなき無垢の処女としての神秘性を守ること。その純粋なる貞操概念を貫くことは、とても大事なことだと私は思います」
「アムト。馬鹿かお前は。童貞こじらせるとろくなことがないぞ。現にこいつは変な性癖に目覚めてしまっているからな。それは、いかん。人間として。だから俺が矯正してやる。なっアーク?」
「やっ、やめろー! 離せジェスー!」
「こらこら。お止めなさい醜い争いは……」
 三人が言い合いになり絡み合う。ギャーギャーといがみ合う様子は、まるで動物の子供が喧嘩する風であった。
 とその仲のよいサークルからぽつりと隔離されるように、最後の仲間は存在していたのである。仲間は四人。三人ではなく最初から四人パーティーだった。
「くうぅ……。もう少しじゃ。もう少しでワシの大火炎魔法が炸裂する……くぅぅ……」
 著しく老齢の――ぼさぼさの頬髯を誇らしげにたたえた彼、自称大魔法使いのザリムが必死で魔法詠唱の準備をしていた。
「おい! 何やってんだよ爺さん! もう戦闘はとっくに終わってんだよ。つったくつかえねーな……。いつも言ってるだろ? 初級魔法のギラルぐらい数秒で使えって!」
 ジェスが大声をあげながらこづく。
 ザリムはその剣幕に一瞬臆したように見えたが、すぐにとりなして反撃した。
「馬鹿者! ギラルなんかではない。ワシはギラドーマのために、一生懸命魂を刻み汗を流し力を溜めておったのだ。後数十秒もあれば……ここは一面敵もろとも焼け野原のはずじゃ……ぐははは……」
「ばーか。あんな雑魚にギラドーマなんかいらねーんだよ。さっさとギラル一発で倒せって。そうすりゃあのお子様勇者が変な気起こす暇もないからな……」
「ちっ。なんじゃなんじゃ……これだから若いものは……。ワシを何だと思ってるのじゃ……ぶつぶつ……」
「まぁまぁザリムさん。ほら、ジェスも言いすぎですよ」
 二人の間にアムトが割って入ったが、事態は非常に険悪であった。
 実際最後の四人目はかなり適当な理由で決められた。勇者盗賊僧侶とくれば――次は魔法使い。そこで目に付いたのが、このひねくれ魔法使いのザリムである。ぐだぐだと酒場で酒を飲みながら管をまいているのをアークが仲間にと呼びかけた。
 他の魔法使いもいたが、全て女の子だったから。そんな理由で彼は消去法的に選ばれたのである。
「あーあーあー。もうワシはお前らのおままごとには付き合ってられんわ。こんなパーティでは、ワシの真価は発揮できん……。何が悲しくて……ぶつぶつ……」
「おいなんだ爺さん。言いたいことがあるならはっきり言えよ」
「む……。それなら言ってやろうではないかこのウスラボケ盗賊。貴様らに言いたいことは山ほどあるが……。そこのクソ坊主、お前は――なっとらん。わかってない。『ゆうわく』をわかってない。お前のやっているのは浅瀬でぴちゃぴちゃと水をはじく少女のおはじきのようなものだ」
「え? 僕ですか? ザリムのお爺さん?」
 急に話を向けられてアークが目を丸くする。
「そうじゃ。ふむ……ちょいと昔の話をしようか。あれはもう何十年も前のことじゃろうか……」
 深く重々しく、魔道の老人の口から昔話が語られ始めた――。

「ワシも昔は血気盛んな若者じゃった……。今よりもずっと英気に優れ、並の魔法なら指先一つで繰り出せるほどの魔法使いじゃった。打倒ドルマゲータ。先代の国王の命にワシも意気揚々と立ち上がった。仲間を募り、冒険をし人を救い、着々とドルマゲータの待つ闇の大陸へと歩みを進めていた」
「あれは――ドルマゲータ四天王の一人で紅一点、黒鞭のラビアの塔に勇んで侵入した時のこと――。ワシのパーティーは強かった。それは強かった。だがそれが驕りだったのかもしれない……」
「最上階でワシ達はラビアと対峙した。いや、ラビア様にやっと出会えた――。あの時の感動をワシは一生忘れない。敵であろうはずの女幹部に、あろうことか並々ならぬ劣情を感じてしまったのだ……」
「際どいボンデージ姿に魅入られた。黒光りする鞭がぴしりと振るわれる度、ワシの心は激しく狂わされた。もちろん、それがラビア様の魅了術ではあったが……。いやそれ以上にワシは見透かされていたのだ……」
「ワシは魔法の詠唱が遅かった。そのせいでよく怒られた。容赦ない暴言を吐かれこつがれ人間性を全否定された。強いもの同士であったが――やはり他人同士だった。それで、ワシはストレスが溜まっていた……知らず知らずの内に、ワシの滑らかな陶器に注がれた煮えくり返る湯はこぼれ落ちそうだった」
「その時もワシはネオメギデオン――超究極核魔法をチャージしていた。仲間が前線で敵を食いとめている間、ワシの魔法で一気に一網打尽にする作戦じゃった。その作戦自体は正しい。しかし――」
「ワシの心はもう限界の瀬戸際じゃった。早くしろ、なにやってる……とワシを非難する仲間の声が聞こえた。いや、もう仲間ではなかった。ラビア様の瞳、ラビア様の唇、ラビア様のおみ足、乳房、胴体手足全てがワシを虜にしていた」
「ワシは完全に魅了されていた。遠くからでもラビア様の誘惑は抜群にワシを甘く取り込んでいた。もちろんワシも抗った。クソのような絆だが、一応はこれまで戦ってきた仲間だからな」
「ワシは最後まで本当に抵抗した。囁きかける美貌の悪魔に心を奪われないように。が――ラビア様の魅力は絶大だった。あの官能的な唇と舌が引き金となって、ワシは昔の仲間の背中めがけてネオメギデオンを――」
「仲間は一瞬で消し炭になった。文字通りカスになってゴミになった。ワシは後悔した。なんてことをしてしまったのだろう――と」
「だがラビア様は即座にワシを救ってくれた。可愛い子……と頬を撫で回されて首輪をつけられて……。はは……ふふふ。これが天上の至福じゃろうか……。ワシはやっと辿り付けた。これが、これが……」
「じゃが天国は長くは続かなかった。どこかの馬鹿が、ラビア様を討伐してしまったのだ……。ワシは泣いた。毎日むせび泣きながら酒を飲み、各地を放浪し、この世を憂いを嘆きながら――今こうして……」


 ザリムの話に区切りがついた。肩が細かく震えていた。
「……爺さん。昔話は結構だが――」
「うるさい。貴様らにワシの何がわかるというのだ。何が『ゆうわく』だ……。ただの小便くさいメス妖精といちゃいちゃしているだけ……そんなのは子供じみた児戯にしかすぎん。そう……もっと支配されるには犠牲がつきものじゃ……。ああラビア様……仲間の命と引きかえに……ワシはあなた様を……へへへ。どうしていなくなってしまったのじゃ……ワシは今でもあの妖艶な肢体を思い出すというのに……。いや、ラビア様は本当は生きていて……今もどこかで……ふふ……うははは……」
「ザ、ザリムさん? 何言ってるの? ごめんなさい。僕よくわからなくて……」
 話をいまいち消化しきれないアークが言った。
「アークは聞かなくていいぜ。この爺さんはとんだ異常者だな。俺たちとは一緒にいけないぜ」
「ふぅむ。残念ですがそうなりますか。ああ人間の絆の儚きこと……。どうして神は私達をおつくりなさったのか……」
 目をつぶって空に十字を切るアムト。
 ザリムはぶつぶつとうわごとのように何かをつぶやいていた。すっかり禿げ上がった頭をかきむしり、血走った目で三人のもとへとにじり寄ってきた。
「お、おいお前たち! そうじゃ、今からラビア様を探す旅に出かけようではないか。あのお方はきっと死んでおらん……。ドルマゲータ四天王……簡単にやられるはずがない。そう、ワシのことを、今でもきっと待っていて――」
 その姿はもはやゾンビのようだった。やつれた腕、ふらふらとおぼつかない足元。死にかけの醜い老人が、最後の力を絞る一仕事。
「おいおい。何か変なことになっちまったじゃねーか。全部お前のせいだぞ、アーク」
「ええっ? 僕のせい? 何で?」
「とにかく面倒なことになりましたね。どうやって丁重にお断り申し上げたらいいか……」
 腕を組んで悩む三人。
 とその時、場の趨勢を大きく左右させる第三者が現れた。
「はーい何してるのお兄さん達? このボクとあそぼーよっ♪ ふふんっ♪」
 それは男の娘――見た目はまるで少年だが敵である。一部の男性にクリティカルヒットを与える、ほとんど女の子のような可愛い男の子である。
 攻撃能力はほとんどないが、小ぶりのお尻をふりふりしながら、その白く透き通る肌と甘い美貌で魅了しようとしてくる。
「おっ。何だこんな時に……」
「うわぁ。あれ? あの子男の子? でももしかして、『ゆうわく』してくるのかな?」
「はぁはぁひひぃ! もう何でもいい! 早くしろ。ワシはラビア様を探しにいくんだ……」
 三者三様。意志疎通の乱れ。事態は収拾不可能に見えたが。
「ん! これはいいことを思いついた。やはり俺は天才だ」
「急に何ですかジェス?」
「いいからお前たち耳をかせ! 早く」
「う、うん……」
「ジェスがそこまで言うのなら……」
 三人寄れば文殊の知恵ではないが、男三人が顔を突き合わせてごにょごにょしていた。
「ねーねーねー。ボクぅ~敵なんだけどぉ~。早く相手してよぉ……♪ ねっお兄ちゃん♪ ボク男だけどぉ……結構エロいんだよぉ……んっ♪」
 痺れを切らした美少年。舌をぺろっと出して目を細める。くりっとした腰を妖しく揺らしながら、巨乳アイドルのような仕草で手のひらを下腹部からゆっくりと胸元までさすり上げる。そのまま薄い胸板をもみしだき、白いシャツのボタンをぷちぷちとはだけながら淡い嗚咽を漏らした。
「あんっ♪ お兄ちゃん……ボク男なのにおっぱい揉んで感じてるの……んっんっ……」
 辺りが魅惑的な嬌声に包まれる。気を抜けば一瞬で魅了されかねない薔薇の蔦。
 男の娘、というこの世で最も美しい第三の性を想起させるような、甘い甘い誘惑が三人に襲い掛かった。
「……わかったな」
「う、うーん? だ、大丈夫かも。たぶん」
「ふーん。中々いい作戦ですね」
 この性的誘惑に、三人はほぼ無視を決め込んでいたがやっと議論は終了したようだった。
「お、おいおい。何をそんな小僧に手間取ってあるのじゃ。ジェス! 早く目障りだからナイフで切り裂いて……」
 指図をするザリム。しかし、彼の意思は無情にもかき消えた。
「それはできないな。爺さん」
「なっ、何を言っている?」
「つまりは……こういうことだ」
「ぬぁっ?」
 ジェスはナイフを構えた。男の娘ではない、かつての仲間――ザリムに向かって。
「ば、馬鹿な。正気かジェス? お、お、男……だぞ? お、お、お前……。ワ、ワシを馬鹿にしているのか?」
 一息、銀髪の盗賊エルフはため息をついた。切れ長の軽薄そうな瞳がうっすらと敵意に満ちていた。
「いや、俺としたことがドジを踏んだ。これほどまで魅力的だとは――。太ももを見て目を見た時にはもう遅かった。その切ない可憐さにやられていたよ……。この背徳感、くせになりそうだ」
 歯の浮くような見え透いた演技だったが、半ば狂気に片足を一歩突っ込んだ状態のザリムにとっては、ほぼリアルの状況と信じるしかなかった。 
「ぼ、僕もそうです……。男の娘、同じオチンチンがあるのに、こんなに可愛らしい……だから。ああ誰かに魅了されるって……ぽかぽかいい気分……」
 アークも微妙な表情でもじもじしながら同調した。心なしか顔が赤らんでいた。
「なっ、くっ。お、おいアムト! さっさと二人にキュアルをかけろ! おい! 聞いてるのかアムト!」
 声を荒げ、おろおろとザリムは右往左往した。まさか突如出現した男の娘モンスターに、二人も意のままに操られるとは思ってもみなかったからだ。
 だが事態はさらに深刻だった。自らが招いた結果の惨事ではあったが、ザリムは今にも崩れ落ちそうな薄氷の上に片足立ちしていた。
「え? 何でしょうか?」
「さ、さささささっきからキュアルだって言ってるじゃろう! はは早くしろ!」
「ああ……そんなことでしたか。それでは今すぐに……ん……」
「おお、よしよし。ふぅこれで助かったぞ。何が、この馬鹿者達が……ぶつぶつ……」
 ほっと胸で撫で下ろし額の汗を拭くザリム。しかし頼みのつなであったアムトが次にとった行動は、老人の心を真に驚愕させるものであった。
「男の娘様……忠誠のキスをいたします。どうかそのすべすべの手のひらをお貸しください」
「あれっ? ボクの力ってこんなに強かったっけ? まぁ……いいや! はぁい♪ お兄ちゃんおいでぇ……ここにチューしたらぁ……完全にボクのものになっちゃうからねー♪」
「はい、仰せのままに……」
「な、おい……まて、おい!」
 ザリムの叫びもむなしく、空ろな目をしたアムトが男の娘の手へ軽く口付けをした。目をつぶり祈りを捧げるようにかしづく。それはいつも彼が神に対して行う神聖な行為だった。
「すいませんザリム。見ての通りです。私も魅了されてしまいました……。おお神よお許しください……。白磁のような美少年の柔肌が……魔がさしたのです……。私も必死で抵抗したのですが……」
 アムトはゆっくりと立ち上がり、自分に心酔するように言った。
「んな、そんな、馬鹿……な?」
「っと! そういうことだ爺さん。俺たち三人全員、男の娘の『ゆうわく』に身も心も焼かれちまったわけだ。まぁ悪く思うな……」
「くっ! ぐぉ……ワ、ワシはまだ終わるわけにはいかん。お前らのような若造に……このまま……うぉぉ――」
 完全に追い詰められたザリム、とった行動は――逃走だった。少しでも可能性の多い方にかける。誇りも何もかもを捨てて、背を向け脱兎のごとく逃げ出そうとした――。
「待て! 動くな!」
「ひぃっ!」
 刃渡りのぎらつく銀色のナイフが、一瞬でザリムのしわがれた喉元にピタリと当てられていた。少しでも動けば、躊躇なく首を落すであろう未来が容易に想像された。
「こっ、やっ、やっ」
「……二度と俺たちの前に現れるな。わかったな?」
「ぅ……わかった」
「よし……」
 ナイフは安全に取り除かれた。
 腰を抜かしつつ足を引きずりながら、かつての仲間だったザリムは遥か遠くへと離れていった。
「お、お、お前たち覚えておけよ。ワシは、ワシは絶対に許さん……。いつか絶対に復讐を――」
 負け犬の遠吠えか復讐者の呪いか。その一言を最後に、老人の姿は平原の景色に溶けて消えてしまった。
「……ふぅ」
 ジェスが一仕事終えて一息つく。
「ザリムのお爺さん何かかわいそう……」
「かわいそうなもんか。ああでもしないと、ひねくれた老いぼれジジイは何をしでかすかわからん」
「あのーねぇねぇ……」
「何だ?」
 男の娘がニコニコ顔で声をかけた。
「どうしてあのお爺さん逃がしちゃったの? ボクって血を見るのもちょっと好きだからぁ……もっといたぶってぇ……ボクのために頑張ってくれたらぁ……うふふ♪ んっ、あっそうだ! 今からでもお兄ちゃん達でいけない同士討ちとかぁ……ボクそういうの大好きだからぁ……」
「……」
 無言でニ、三度鋭利なナイフが旋回する。
 直後、はらはらと男の娘の服が見事に解体されていた。真っ白のブリーフだけを残し、生まれたままの姿を女装美少年に強制させた。
「いやぁん♪ いきなり何するのお兄ちゃん……」
「何で胸隠してんだよお前は」
「だ、だってボクおっぱいも可愛いし……。ん……その、お兄ちゃん……お兄ちゃんにこんな趣味があるなんて……。でも大丈夫だよ……ボク無理矢理されるのも好きだから……ん……」
「死ね。今すぐ消えろ」
「えっ、あっ、うわ、いやぁぁぁ~ん……」
 ジェスがナイフを一直線に突きつける。明らかな殺意。たまらず男の娘は涙目で内股走りで逃げ去った。
 これにて全ての脅威は去った。


「ふぅ。ようやく全部片付いたぜ」
「お疲れ様ですジェス」
「ジェス! かっこよかったよ!」
「おう……」
 パーティーの間に一時の安堵が灯る。
 気のおけない語らい。その中でも年若い少年アークは目を輝かせていた。
「……『ゆうわく』ってすごい。人の心をあんなに操れて……ううん、ザリムのお爺さんのことはちょっと酷いと思ったけど……。まだまだ色んな出会いが僕を待っていて……さっきの男の娘だってお肌真っ白ですべすべで可愛かったし……」
「お前何でその結論に達するんだよ。と、それより――アムト、一つ聞きたいことがあるんだが……」
「何ですか?」
 横目でジェスがアムトを見つめる。極めて訝しげな視線で。
「何であのメスガキにキスしたんだ?」
「あ、それは……ほら。その方が魅了に深くかかってしまったと……ザリムさんを騙せると……」
「……そうか」
「そうですそうです! 特に深い意味はありません。ほら、私って演技とか頑張っちゃう方ですから。役に没頭しちゃうんですよ、ふふふ……」
 妙な汗をかきながらアムトは笑った。それを見てアークがきょとんとする。
「どうしたの? アムト? 何か変だよ?」
「いえ……」
「アーク! 今日からケツの穴に注意しとけよ!」
「ええっ? 何でジェス? 僕の……お尻の穴? ええっ?」
 少年は条件反射的に後ろに手を回した。意味もわからずに、年上二人の様子を伺う様子が、すれてない愛おしさでくるくると満ち溢れていた。
「ねぇアムト? 僕のお尻……何かおかしいのかな? よかったら見てくれる?」
「うわ、違うんです。私はそんなつもりではありません。聖職者として、あなたを正面から――」
「アムト……。よくわからないけど……僕のお尻……お願いします……」
「ひえっ。私は罪を犯せません……。ささようなら……」
「あっ、待って待ってよぉ~」
 少年アークのどこまでも肥大する好奇心。それは天高く舞い上がるペガサスのごとく気高く麗しい。
 彼の冒険はまだ始まったばかりである。これからどんな出会いや試練があるのか――。神のみぞ知る未開のフロンティアである。
 今、少年戦士アークは駆け出した。ズボンを膝に引っ掛け、だらしなく半分ほど、白いお尻を優しい日の光に晒しながら――。






  1. 2013/10/08(火) 22:44:20|
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  1. 2013/10/09(水) 19:00:27 |
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